第1回 サーバのCPUとメモリ帯域編
InfiniCloudってどんな会社?
筆者は、各種半導体製品を取材して、その注目すべき技術を解説する記事を数多く執筆しているが、これまではどちらかと言えば、クライアントPC製品方面をメインに取り扱ってきており、サーバー製品のハードウェアにフォーカスした取材をしたことはあまりなかった。
サーバーのハードウェアというものは、一般ユーザーとは縁遠いものであるためか、サーバー事業者も率先して、サーバーのハードウェアを見せびらかしたりもしないものだ。そのあたりが、この「縁遠さ」の理由になっているのだが、「もし見られるなら見てみたいな」という軽い気持ちはあるにはあった。
そんなある日、仕事のお付き合いの関係で、InfiniCloud株式会社(代表取締役CEO:瀧 康史、旧テラクラウド株式会社)の中の人達とお話をする機会があり、「サーバーの中身側の話をしていただける」ということになり、今回、そのお言葉に甘えることとなった。
InfiniCloud社は、2002年よりプライベートクラウド事業をメインに営んでいるサーバー事業社だ。
事業を開始した2002年頃は、レンタルサーバ(Webホスティング)が中心だったが、プロセッサの仮想化技術の発展と熟成が進んだ2007年頃からは、InfiniCloud社は、顧客の事業形態に合わせてカスタマイズできる高品位なプライベートクラウド事業にも参入している。
様々なサーバー事業を手掛けるInfiniCloudから、どんな話を聞こうか…と考えたときに、筆者は、せっかくならば、比較的、世代の新しいサーバーの話を聞かせてもらいたい…と考えた。その旨を告げたところ、InfiniCloudが提供している最新のプライベートクラウドシリーズ「6G Third Edition」の説明をしてもらえることになった。
実際、広範囲の興味深い話を聞くことができたのだが、第1回目の今回は、InfiniCloud社の最新プライベートクラウドサービス「6G Third Edition」のスペック周りの解説から行うこととしたい。
仕様が画一的なイメージのあるサーバーマシンだが、InfiniCloud社の「6G Third Edition」では、「仕様の1つ1つ」に、「こうした方が便利なはず」というような、同社なりの「こだわりの開発コンセプト」が反映されていることを知ることが出来た。
システムインテグレーター(SIer)はもちろんのこと、一般のPCユーザーにも興味を持ってもらえる情報もあると思うので是非一読を願いたい。
2つの仮想化プラットフォームが選べる理由
いきなり本題へと行こう。
InfiniCloud社が提供する「6G Third Edition」の料金表は以下のようになっている。
サービス名 | スペック | 料金 |
---|---|---|
High Response Private Cloud AMD EPYC™ AMD EPYC 4thGen 9004 Series | 64Threads 384GB Memory〜 | 227,700 円/月〜 |
High Response Private Cloud Intel® Xeon® SP 3rdGen Icelake SP | 48Threads 512GB Memory〜 | 216,700 円/月〜 |
VMware Private Cloud AMD EPYC™ 4thGen 9004 Series | 64Threads 384GB Memory〜 | 361,900 円/月〜 |
VMware Private Cloud Intel® Xeon® SP 3rdGen Icelake SP | 48Threads 512GB Memory〜 | 403,700 円/月〜 |
料金表より抜粋。詳細な料金表はこちら
今回の話題でまず注目してもらいたいのは、上段の4つ。 この部分からは、InfiniCloud社は「6G Third Edition」を、2つの仮想化プラットフォーム×2つのサーバー仕様の「2x2」の4種類のサービスとして提供していることが読み取れる。
実際には、予算に応じて、さらに細かい仕様バリエーションが設けられているのだが、大枠としては、2種のソフトウェア、2種のハードウェアの組み合わせでサービスを提供している…と理解でよい。
で、仮想化プラットフォームが2種類設定されているのはなぜなのか。
(代表取締役CEO:瀧 氏)
「6G Third Edition」では、仮想化プラットフォームとしてVMware以外の選択肢として「High Response Private Cloud」というソリューションも提供している。こちらは、オープンソースの「Xen」ベースの仮想化プラットフォームをベースに、InfiniCloudが独自チューニングしたものとなっており、高負荷時にも、安定したパフォーマンスを維持しやすくなっているのだそう。
従って、InfiniCloudとしては、コストパフォーマンス重視のサービスを欲している事業者はもちろん、性能重視の運用を行いたい事業者にも、High Response Private Cloudの方をお勧めしたいとのことだ。
XeonとEPYC。CPUはどちらを選ぶべきか
前述したように、InfiniCloud社のサーバーマシンは、ハードウェア仕様も2種類から選べるようになっている。
1つは、インテルのXeon系プラットフォーム。もう一つは、AMDのEPYC系プラットフォームだ。
「6G Third Edition」では、インテル系プラットフォームとしては、「Intel Xeon Scalable Processor Ice Lake SP」を2ソケットで運用するモデルを採用しており、予算に応じて標準仕様の24コア/48スレッドモデルの「Xeon Silver 4310」、上位仕様の40コア/80スレッドモデルの「Xeon Silver 4316」が選べるようになっている。
なお、これらは第3世代Xeonに相当する。既に第4世代Xeon(Sapphire Rapids-SP)は発表されているのに、どうしてこのようなラインナップとしているのだろうか。
(エンジニアリング本部 本部長, 小熊 氏)
一方で、AMD系プラットフォームでは、最新の第4世代EPYC(Genoa)を採用しており、予算に応じて標準仕様の32コア/64スレッドモデルの「EPYC 9124」、上位仕様の64コア/128スレッドモデルの「EPYC 9334」が選べるようになっている。
ここにもこだわりのポイントがありそうだ。
(エンジニアリング本部 本部長, 小熊 氏)
なお、AVX-512命令セットについては、インテル系プラットフォームにおいては、第3世代Xeonから対応しているので安心されたし。
そういえば、InfiniCloud社のサーバーマシンは、CPUが2ソケット仕様(≒2CPU仕様)に限定されており、4ソケット仕様(≒4CPU仕様)が設定されていない。これについては、掛かる導入コストと得られる最大性能のバランス、そして消費電力効率の観点から、4ソケット仕様よりも2ソケット仕様の方が、顧客にリーズナブルなサービスを提供できると判断したため…と説明されている。
総合性能の向上に"鍵"となるメモリー性能
InfiniCloud社のサーバーマシンは、搭載メモリーのコンフィギュレーションやチューニングにも「独自のこだわり」があるのだという。
複数の仮想マシンが動作している環境において、それぞれのユーザーが満足の行く利用感を得られるためには、一番は、CPU性能が重要だと思われがちだ。実際、CPU性能の優劣は重要であることは間違いないのだが、多くの仮想マシンが動作しているとき、あるいは多くのユーザーからのアクセスが集中しているサーバーマシンにおいては、「CPUに対する演算負荷」よりも「データの読み書きの集中」の方が、そのサーバーのトータルパフォーマンスに影響が出やすい。
膨大なユーザーからのデータの読み出しのリクエストは、ランダムなメモリーアドレスへのアクセスが頻発することであり、これは、当然CPU側のキャッシュメモリーを飽和させる。こうなるとCPUはキャッシュメモリーの性能を活かすことはできず、システムの実効パフォーマンスは、メインメモリーの速度に左右される。
システムのパフォーマンスがメインメモリーの速度に左右されるシチュエーションは別の理由からも起こりうる。それは、各仮想マシンや、各ユーザーからの、ストレージへのデータアクセスが増えたときだ。こうした状況下では、ハイパーバイザー管理下のメモリ空間へのメモリーアクセスが頻発することになり、これは多くの場合、実務としては、膨大なメモリーデータコピー工程となる。つまり「メモリーパフォーマンスの善し悪し」が、システムパフォーマンス全体に影響を及ぼすようになるのだ。
InfiniCloud社の「6G Third Edition」における、インテル系XeonプラットフォームとAMD系EPYCプラットフォームのそれぞれのメモリーパフォーマンスは以下のようになっている。下表は「High Response Private Cloud」のものになっているが、「VMware Private Cloud」もスペック的には同じだ。
CPU | TYPE | AMD EPYC™ 9004 | Intel® Xeon® SP 3rdGen Icelake SP | |||
---|---|---|---|---|---|---|
Memory | Size | 384GB | 768GB | 1536GB | 512GB | 1024GB |
Bandwidth | 460GB/sec | 920GB/sec | 920GB/sec | 341GB/sec | 341GB/sec |
AMDのEPYC9124/9334は、メインメモリー(RAM)にDDR5-4800(4.8GHz相当の意)を採用しており、メモリーバス幅は64ビット(8バイト相当)、メモリーチャネル数は12なので、1ソケットあたりのメモリー帯域は
4.8GHz × 8bytes × 12ch = 460GB/s
となる。
表を見ると分かるが、460GB/sのメモリー帯域が提供されるのは、メモリー容量384GBのサービスということになる。こちらは、容量32GBのDIMM(メモリーモジュール)を12枚搭載したマシンによって実現される。搭載CPUは2基仕様だが、メモリーは片側のCPUに直結されるコンフィギュレーションとなる。
なお、ちょうど2倍の920GB/sのメモリー帯域が提供されるのは、搭載される2基のCPUのそれぞれにメモリーを直結させるコンフィギュレーションになる。こちらは、容量32GBのDIMMを24枚搭載した総容量768GBのサービスと、容量64GBのDIMMを24枚搭載した総容量1536GBのサービスがラインナップされる。
高負荷時にトータルパフォーマンスが下がりにくいのは、後者の920GB/sのメモリー帯域のサービスの方だ…ということは、言うまでもないだろう。
(代表取締役CEO:瀧 氏)
さて、インテルのXeon Silver 4310/4316は、メインメモリー(RAM)にDDR4-2667(2.667GHz相当の意)を採用しており、メモリーバス幅は64ビット(8バイト相当)、メモリーチャネル数は8なので、1ソケットあたりのメモリー帯域は
2.667GHz × 8bytes × 8ch = 170.7GB/s
となる。
インテル・Xeon系の「6G Third Edition」サービスでは、AMD・EPYC系のサービスとは違い、DIMMは、必ず、2つのCPUに8チャネルずつ接続する仕様となっているので、容量512GBのサービスも1024GBのサービスも共に、170.7GB/sの2倍の値である341GB/sとなっている。
なお、512GBのサービスは容量32GBのDIMMを16枚搭載したものであり、1024GBのサービスは、容量64GBのDIMMを16枚搭載したものということになる。
以上のことを踏まえると、InfiniCloud社が提供するプライベートクラウドの「6G Third Edition」サービスにおいては、高負荷時に安定したパフォーマンスを維持できるのは、AMD・EPYC系の方になりそうだ、と言うことが見えてくる。
ただ、前述したように、インテル系プラットフォームを好む顧客も少なからずいるため、インテルとAMDの両方のプラットフォームで提供しているということなのだろう。
次回はInfiniCloud社が提供するプライベートクラウドの「6G Third Edition」サービスにおける、ストレージデバイスへのこだわりについて見ていこうと思う。ではまた。
シリーズ: 西川善司の「InfiniCloudのサーバーの中身、見せてもらえます?」
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